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百合や二次創作 警報発令。デニムや二輪もあるよ。
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Do You Believe In Magic ?
「 Do You Believe In Magic ? 」
さすが、スポーツタイプは良く走るわね、と赤いバイクを走らせながらティアナは感心していた。
機動六課に配属になり、初めてのオフの日のこと、
「貸すのはいいけど、こかすなよ。」と言いながらティアナにとっては仲の良い兄のような機動六課のヘリパイロットのヴァイス・グランセニックが貸してくれたバイクだった。
快適なスピードで景色が流れていく。
体に感じる振動と流れる景色と耳に届く風の音が心地よい、髪の毛を風になびかせながらバイクのハンドルを握るティアナは、頭の中から余計なことを全部追い出してバイクの運転と風の音と流れる景色だけに集中していられるツーリングほどの贅沢は無いんじゃないかしら、と思いながら郊外のワインディングロードを軽快にとばしていた。
ふっとバイクのエキゾーストに紛れて自分の口から「スバル」という親友の名前が飛び出したことに気が付き、驚いたティアナは「なんだってちょっとぼんやりしてただけでスバルの名前を独り言で口にしないといけないのよ。」と思うと同時に、もし聞こえてたりしたら、なんて言い訳すればいいのよ。などと一人で慌てていた。
そして、その少し後で「聞こえちゃってても…まぁいいか。」とふと思ってしまった自分にさらに驚きつつ、さっきの独り言をごまかすわけではないけれど、今度はちゃんと聞こえる声ですぐ後ろに乗っている親友にいつものように呼びかけた。
「スバル!ちょっと飛ばすから、ひっくり返ったりしないで
よ!」
声をかけられたスバルと呼ばれた少女が前に乗っているティアナに体をくっつけるようにして耳元に向かって大声で応えた。
「大丈夫だって!しっかり構えておくし、なによりティアは運転上手だもん!」
それを聞いたティアナはちらっと右手に握るスロットルに目をやって「よし、それじゃぁ、いくわよ!」
と言って少し腰を落としてじわりとアクセルスロットルをひねった。
スバルも腰を落とした体制になり、加速に備えたのがしっかりとしたサスペンションを通じて伝わってくる。
少しアクセルを大きく開ける。バイクのエンジンの回転数がパワーバンドに入ったことをタコメーターの針より早く排気音と体全身で感じる風圧が教えてくれた。
目の前に迫る、走っていると抜けるような青空が視界の8割を占めるんじゃないかと思われるくらいの急勾配な上り坂へ向けてティアナはさらに右手のアクセルを大きく開けた。
思わず目を細めたくなるほどの風圧と空の蒼さが全身を包む。
ティアナはバイクに乗っているとき「人はどうしてある程度のスピード感と空の青さの中に置かれるとこんなにテンションが上がってくるのか全く不思議でしょうがない。」と、考えることがある。
「きっとスバルは遊んでるときにこんな理屈っぽいこと考えたりしないんだろうな。」と思い、こんなときにまで変に堅物な自分に苦笑しながらギアを一つ引き上げた。
かくいうティアナも同じバイクの上で同じ風と景色、匂いを感じてくれているであろう親友のスバルが今、一緒に居てくれていることがたまらなく嬉しく、おまけに天気も道路もすべてグッドコンディションという条件のおかげで結構盛り上がった気分になってきているのである。
しかし、ティアナは、あからさまにはしゃいだりすることが少し気恥ずかしかったりする性格である為に、この盛り上がった気分を素直に吐き出す良いきっかけを密かに待っていたりもしていた。
そもそもこういう場面なら真っ先に嬉しいとか楽しいとかなんとか、かなり大きなアクションをもってスバルがはしゃぎ、それに対してティアナがちょっとあきれ気味に同調する。というのがいつものパターンだったからである。
しかし、後ろに乗っているスバルにまだそんな様子は見られず、ティアナはそのおかげで自分がちょっとアハハなんて笑ってみたいような今の気分を開放するのは気が引けるとかそんなことをぐだぐだと考え続けていたのであった。
一言で言えば、「スバル、あんた早く楽しいとかなんとか言って盛り上がりなさいよ!」てことなのよね。
と自分で現状を分析などをしまうあたり、ちょっと勿体ないのよね、ほんとは。とティアナは一人考えていた。
すると、後ろから「ヤッホゥー!」なんて陽気な叫び声が聞こえてきた。それを聞いたティアナは内心ちょっとほっとしながら「ちょっと、スバルはしゃぎすぎ!」などと大声で返した。しかし、その後ティアナ自身も結構大きな声でアハハと笑いながら確かに楽しいわね!等とアクセルを開けながらこの楽しい時間を満喫するようになっていた。
こんな風に大声で自然に笑える瞬間をくれるのはいつもスバルなのよね、とこんなときにティアナはいつも思う。
スバルの第一印象は、やっかいなルームメイト兼仮パートナーだったように記憶している。魔法の制御もめちゃくちゃ、能天気な考えでティアナのペースを乱す、おまけに変に人懐っこくて遠ざけようとしてもズカズカと壁を越えてくる。
仮パートナーの期間が終わるまでの間、ティアナの足を引っ張らない存在で居てくれたらそれだけで良かったはずなのに、結局なんだかんだで数年間仕事の頼れるパートナーとしてはもちろん、休みの日まで一緒にツーリングに出かけてアハハなんて笑いあう親友にまでなってしまった。
スバルに出会ったころのティアナは 執務官になるという夢以外のことは全てその夢までの通過点であったり手段でしかなく、そんな日常は今考えたら白と黒のモノクロームで描かれた世界みたいなものだったのだろう。
訓練校に入学して数ヶ月後、スバルのことをナカジマではなく「スバル」と呼ぶようになってティアナの中のモノクロだった世界が少し変わった。
一緒に訓練校を卒業して、同じ部隊、同じ現場で任務に就くようになったころにはモノクロの世界がパステルカラーの世界と言えるくらい変わっていた。
毎日毎日の生活の中で、スバルが好きな食べ物をいつの間にかティアナも好きになっていたり、書類整理が一段落したときに隣のデスクでうんうんうなっているスバルに思念会話で話しかけたり、傘を忘れてた日の帰り道、後からスバルが追いかけてきて一緒の傘に入って帰ろうよと声をかけられたりしたとき。そんな瞬間一つ一つの度にきっとティアナの心の世界に少しずつ色彩が増えていたのだろうと思う。
自分達はもちろん魔導師で、魔法というものを生業としているが、それとは別にこのスバルという少女は自分にとってある特殊な効果を発生させる魔法を使う「魔法使い」なのではないのか、と考えるときがある。ごく自然にちょっとしたことでティアナの心のキャンバスに色を増やしたり、忘れられない思い出を作ったり。これまでの二人が過ごしてきた時間の中でスバルの存在はまさにティアナにとって特別なものになっていたのだった。
そして今、機動六課でスバルと一緒に過ごす日々はとても鮮やかで、そこにはスバルを中心に仲間や上司達といったそれぞれティアナの心のキャンバスにさらに色と広がりをくれる人が沢山いる。
バイクが長い上り坂を越えた。目の前にミッドチルダの街が大きく開けているのが目に飛び込んできた。コンクリートとガラスとアスファルトと金属で作られた街は山の緑や空の青、海のきらめきが鮮やかな視界の中でモノクロームのどっしりとした質量をもった存在として目に映る。
あんな無機質に見える街の中で沢山の人々がそれぞれ今のティアナが心の中に持っているようなビビッドな世界を日々作り上げながら生活をしている。
そして、今自分達はその生活を守るために戦っている。坂道の頂上からの光景はそんなことをティアナに考えさせた。
執務官になる夢はもちろん今でも変わらない。しかし、執務官になることそのものが夢だった昔とは違い、機動六課に入ってからのティアナには執務官になって何を成すべきか。何をどうして守りたいのか、そんなことがはっきりと見えてきたのである。
今はこれまで思い描いていたよりもずっと鮮やかに、生きている現在だけでなくこれからの未来もティアナの心の中に存在するようになっている。
そしてその未来では今、後ろで大はしゃぎしている親友ともいずれ職場は離れてしまうかもしれないが、きっと今と同じようにティアナもスバルもこの世界に生きる人々の未来を守っているに違いない。
同じ夢を持つ二人のルートがいつか分かれてしまう日まで、できるだけこうやって同じ景色を一緒に見ていたい、そして、その後再び同じ道を走るようになる時までそれぞれが変わらない想いのまま居られる様に、今こうして一緒に見ている景色を鮮やかに心の中に残しておきたい。ティアナは最近よくそんな風に考えるようになっていた。
ちょっと自分が感傷に浸っていたことに照れくさくなったティアナは、「街に行った真っ先にらあんたの大好きなアイスクリームを食べに行くんだから、しっかり気合入れてつかまってなさいよ!」とスバルに声をかけた。
「了解!ティア!」しっかりティアに掴まってるから大丈夫だよ!そう言って抱きつくようにティアナにしがみついたスバルにティアナは「私じゃなくて、バイクにつかまんなさいよ!」と一瞬目を向け、言い放った後、日の光に照らされて銀色に輝いて見えるミッドチルダの街に向けてスロットルを全開にした。
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