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百合や二次創作 警報発令。デニムや二輪もあるよ。
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Melting point
「Melting point 」
本来オフだった午後が突然のアラートでオフィス待機に変更されたのが午後一時ちょっと前。
スバルのルームメイトであり、元同僚のティアナ・ランスターにオフタイム返上の連絡と今日の遅めの昼食の予定を次回休暇のタイミングに変更する旨の思念通信を入れたのが多分午後一時丁度。
スバル・ナカジマが所属する特別救護部隊に協力依頼が来たのが午後二時三十分。
スバルが慌しく出動準備を済まし、他の隊員達と隊員輸送用の大型ヘリに乗り込み、現場が視界の端に捕らえられてきたくらいの場所まで接近した時間は目標よりも五分早い午後二時四十五分。
そしてその事故がスバル達が所属する部隊の到着を待たずして無事解決したとの連絡が入り、スバルがオフタイムを取り戻したのが午後三時。
幸い大規模な事故にも関わらず、怪我人の類が出ることも無かったとの報告を受けたスバルはほっとした様子の隊員達と共にオフィスに戻り報告書を作成していた。
簡単な内容にも関わらず事後報告の書類作成に手間取ってしまったスバルは運悪く部隊の先輩隊員から現場付近で検証を行っている別隊への資料の提出と今まさに書き終えた書類をもっての任務完了及び引継ぎ報告を表向きは書類作成者であるからという理由と「住居がどちらかと言えば現場のある方角であるうえに一番の新入りだから。」という単純明快な裏の理由で要請されてしまった。
無事に仕事を終えたスバルは事件現場からほんの目と鼻の先にある砂浜で実は今日の午後はオフタイムだったことを思い出し、少しだけぼんやりして帰ろうと靴とソックスを脱いでまだひやっとする波打ち際にそっと足を入れた。
しっとりとした砂の感触が心地よく、さらさらと足の甲を寄せる波が撫でては引いていく。
「そういえば、海なんて来たの一年ぶりくらいかもしれない。」
足元からちょっと遠くを眺めるとクリアな水はスバルから少し離れたやや深くなる辺りから鮮やかなコバルトブルーになり、その青い海が続く限り白く海面を撫でる波とまだ淡い空の青とで視界と頭がいっぱいになる。
仕事柄、家の外で平和な時間を過ごすことは普段ほとんど無いといってもいいスバルは遠くやら近くを悠々と飛んでいるカモメだったり、対岸の霞んで見えるミッドチルダの中心にある高層ビル群だったりを漣の音以外何も聞こえない浜辺で本当にぼんやりと眺めていた。
いつもならあのビル群の真ん中にある一番高い管理局の一角で書類仕事に悪戦苦闘したり訓練場で汗を流したりしているんだよなぁ、なんてことを考えながらちょっと深くなっている方へ歩いていった。
待機から出撃への緊張の余韻をほぐしてくれているような足をちゃぷちゃぷと撫でる波が冷たくて大きな深呼吸ともに伸びをしてそのまま規則正しく波の打ち寄せる水面に目を向けた。
よく見ると透明な水の中は以外にも様々な色彩が隠れていた。砂、海藻、貝殻など様々な細かいかけらが波のリズムに乗ってゆらりゆらりと動いている。
ピンク色のちいさなものがヒラリと水中を舞ったような気がした。
スバルが「桜貝」そんな名前とそういう貝があったということを思い出したのは何度かその欠片が目の前をひらひらと往復した後だった。
「さ く…ら?」水中でゆらゆらと舞う貝殻に一年ちょっと前に嗅いだ事のある香りが頭の奥で蘇ったような気がした。
あれは草の匂いだったろうか、太陽の匂いだったろうか、花の匂いだったろうか。
薄くけぶったような青空に薄いピンク色の花びらが大量に舞う。そしてその下には仲間達が少し緊張した面持ちでそれぞれのデバイスを構えている。スゥ…と一瞬全身に冷たい水が透り抜けるような感覚の後、一斉にバリアジャケットにセットアップした仲間達。
そしてその数分後、結局全く歯が立たなかった先輩達の余裕の笑顔。
結果的には模擬戦で大敗したものの、機動六課フォワード新人達の表情はとても柔らかで楽しそうだった。
「ああ、本当に私今幸せだ。」なんて隣で同じくボロボロになりつつも珍しくアハハなどと声を上げて笑っている親友の顔を見ながらしみじみ感じたことも思い出した。
決して忘れていたわけではないけれども、ひたすらこっちに向かってやってくる毎日の中で確実にそれらの記憶は色褪せて、くすんで、だんだん頭の奥へと押しやられてしまっていた。
日々新たに手にするものでぎっしりいっぱいになりそうな自分の中でそんな大事な記憶やそれに繋がる大切なものが決して埋もれてしまわないように、毎日毎日そう意識して過ごしていたはずなのに。この瞬間まで思い出の輪郭も描けないほど薄れてしまっていた。
ひらひらと水の中を頼りなくゆれる桜色の貝殻。
そんなものが自分には守らないといけない、無くしてはいけないものがあること。
積み上げてきたものがあること、包んでくれるものがあること。そんな当たり前すぎて忘れてしまっていることを思い出させてくれたのだ。
足をさらさらと撫でているまだ泳ぐには冷た過ぎるであろう水の感触と塩の香りにふっと我に返ったスバルは「ありがとうね。君のおかげで大事なことを思い出すことが出来たよ。」そんなことを小さくつぶやきながらそっと水の中に手を入れた。手のひらの上でさらさらと桜色の貝殻が波の行き来にそって揺れている。
ふと顔を上げて回りを見渡すと、水の中のそこかしこに桜貝が舞っていた。まるであの日の空のようにひらひらとピンク色が青い水の中に舞っていた。
それらの一つ一つに誰かの大事なものが詰まっているような気がしてなぜか鼻の奥がツンとした。
その瞬間、痛かったことや悲しかったこと、悔しかったこと、楽しかったこと、嬉しかったことそんなものの塊が自分の中に一気に吹き荒れた。
「もしかして私はちょっとだけ泣きたかったのかもしれないな。」ふとスバルはそんな風に思った。
これまで夢に向かって一直線に走ってきた。そして今は夢の真っ只中に居る。家に帰れば大事な親友もいる。この世界の色んなところに大事な家族や仲間や先輩がいて、それぞれ違うものと戦ったりそれぞれの大切なものを守ったりしてるけど元気で居てくれている。
そんな当たり前になっていることへの感謝を忘れていたわけでは無いけれども。改めてこんな奇跡みたいな幸せの中に自分が居ることのありがたさ。そんなことを考えているうちに、いつの間にか涙がスバルの頬をぬらしていた。
あの日見た桜の光景と、今日感噛み締めた今の自分があることへの感謝の気持ちを繰り返し押し寄せてくる波のような毎日に埋もれさせないように。
これから先もこの薄い貝殻のように壊れやすくて綺麗で大切なものを守っていくために、守るために手にしているものはちょっと力を込め過ぎると割れてしまうことを忘れないためにスバルは手のひらの上で揺れる見た目以上に薄いそれらが割れないように掬い上げてそっと指先で撫で、そしてそのまま二枚の桜色の貝殻をそっとジャケットのポケットに入れた。
本来オフだった午後が突然のアラートでオフィス待機に変更されたのが午後一時ちょっと前。
スバルのルームメイトであり、元同僚のティアナ・ランスターにオフタイム返上の連絡と今日の遅めの昼食の予定を次回休暇のタイミングに変更する旨の思念通信を入れたのが多分午後一時丁度。
スバル・ナカジマが所属する特別救護部隊に協力依頼が来たのが午後二時三十分。
スバルが慌しく出動準備を済まし、他の隊員達と隊員輸送用の大型ヘリに乗り込み、現場が視界の端に捕らえられてきたくらいの場所まで接近した時間は目標よりも五分早い午後二時四十五分。
そしてその事故がスバル達が所属する部隊の到着を待たずして無事解決したとの連絡が入り、スバルがオフタイムを取り戻したのが午後三時。
幸い大規模な事故にも関わらず、怪我人の類が出ることも無かったとの報告を受けたスバルはほっとした様子の隊員達と共にオフィスに戻り報告書を作成していた。
簡単な内容にも関わらず事後報告の書類作成に手間取ってしまったスバルは運悪く部隊の先輩隊員から現場付近で検証を行っている別隊への資料の提出と今まさに書き終えた書類をもっての任務完了及び引継ぎ報告を表向きは書類作成者であるからという理由と「住居がどちらかと言えば現場のある方角であるうえに一番の新入りだから。」という単純明快な裏の理由で要請されてしまった。
無事に仕事を終えたスバルは事件現場からほんの目と鼻の先にある砂浜で実は今日の午後はオフタイムだったことを思い出し、少しだけぼんやりして帰ろうと靴とソックスを脱いでまだひやっとする波打ち際にそっと足を入れた。
しっとりとした砂の感触が心地よく、さらさらと足の甲を寄せる波が撫でては引いていく。
「そういえば、海なんて来たの一年ぶりくらいかもしれない。」
足元からちょっと遠くを眺めるとクリアな水はスバルから少し離れたやや深くなる辺りから鮮やかなコバルトブルーになり、その青い海が続く限り白く海面を撫でる波とまだ淡い空の青とで視界と頭がいっぱいになる。
仕事柄、家の外で平和な時間を過ごすことは普段ほとんど無いといってもいいスバルは遠くやら近くを悠々と飛んでいるカモメだったり、対岸の霞んで見えるミッドチルダの中心にある高層ビル群だったりを漣の音以外何も聞こえない浜辺で本当にぼんやりと眺めていた。
いつもならあのビル群の真ん中にある一番高い管理局の一角で書類仕事に悪戦苦闘したり訓練場で汗を流したりしているんだよなぁ、なんてことを考えながらちょっと深くなっている方へ歩いていった。
待機から出撃への緊張の余韻をほぐしてくれているような足をちゃぷちゃぷと撫でる波が冷たくて大きな深呼吸ともに伸びをしてそのまま規則正しく波の打ち寄せる水面に目を向けた。
よく見ると透明な水の中は以外にも様々な色彩が隠れていた。砂、海藻、貝殻など様々な細かいかけらが波のリズムに乗ってゆらりゆらりと動いている。
ピンク色のちいさなものがヒラリと水中を舞ったような気がした。
スバルが「桜貝」そんな名前とそういう貝があったということを思い出したのは何度かその欠片が目の前をひらひらと往復した後だった。
「さ く…ら?」水中でゆらゆらと舞う貝殻に一年ちょっと前に嗅いだ事のある香りが頭の奥で蘇ったような気がした。
あれは草の匂いだったろうか、太陽の匂いだったろうか、花の匂いだったろうか。
薄くけぶったような青空に薄いピンク色の花びらが大量に舞う。そしてその下には仲間達が少し緊張した面持ちでそれぞれのデバイスを構えている。スゥ…と一瞬全身に冷たい水が透り抜けるような感覚の後、一斉にバリアジャケットにセットアップした仲間達。
そしてその数分後、結局全く歯が立たなかった先輩達の余裕の笑顔。
結果的には模擬戦で大敗したものの、機動六課フォワード新人達の表情はとても柔らかで楽しそうだった。
「ああ、本当に私今幸せだ。」なんて隣で同じくボロボロになりつつも珍しくアハハなどと声を上げて笑っている親友の顔を見ながらしみじみ感じたことも思い出した。
決して忘れていたわけではないけれども、ひたすらこっちに向かってやってくる毎日の中で確実にそれらの記憶は色褪せて、くすんで、だんだん頭の奥へと押しやられてしまっていた。
日々新たに手にするものでぎっしりいっぱいになりそうな自分の中でそんな大事な記憶やそれに繋がる大切なものが決して埋もれてしまわないように、毎日毎日そう意識して過ごしていたはずなのに。この瞬間まで思い出の輪郭も描けないほど薄れてしまっていた。
ひらひらと水の中を頼りなくゆれる桜色の貝殻。
そんなものが自分には守らないといけない、無くしてはいけないものがあること。
積み上げてきたものがあること、包んでくれるものがあること。そんな当たり前すぎて忘れてしまっていることを思い出させてくれたのだ。
足をさらさらと撫でているまだ泳ぐには冷た過ぎるであろう水の感触と塩の香りにふっと我に返ったスバルは「ありがとうね。君のおかげで大事なことを思い出すことが出来たよ。」そんなことを小さくつぶやきながらそっと水の中に手を入れた。手のひらの上でさらさらと桜色の貝殻が波の行き来にそって揺れている。
ふと顔を上げて回りを見渡すと、水の中のそこかしこに桜貝が舞っていた。まるであの日の空のようにひらひらとピンク色が青い水の中に舞っていた。
それらの一つ一つに誰かの大事なものが詰まっているような気がしてなぜか鼻の奥がツンとした。
その瞬間、痛かったことや悲しかったこと、悔しかったこと、楽しかったこと、嬉しかったことそんなものの塊が自分の中に一気に吹き荒れた。
「もしかして私はちょっとだけ泣きたかったのかもしれないな。」ふとスバルはそんな風に思った。
これまで夢に向かって一直線に走ってきた。そして今は夢の真っ只中に居る。家に帰れば大事な親友もいる。この世界の色んなところに大事な家族や仲間や先輩がいて、それぞれ違うものと戦ったりそれぞれの大切なものを守ったりしてるけど元気で居てくれている。
そんな当たり前になっていることへの感謝を忘れていたわけでは無いけれども。改めてこんな奇跡みたいな幸せの中に自分が居ることのありがたさ。そんなことを考えているうちに、いつの間にか涙がスバルの頬をぬらしていた。
あの日見た桜の光景と、今日感噛み締めた今の自分があることへの感謝の気持ちを繰り返し押し寄せてくる波のような毎日に埋もれさせないように。
これから先もこの薄い貝殻のように壊れやすくて綺麗で大切なものを守っていくために、守るために手にしているものはちょっと力を込め過ぎると割れてしまうことを忘れないためにスバルは手のひらの上で揺れる見た目以上に薄いそれらが割れないように掬い上げてそっと指先で撫で、そしてそのまま二枚の桜色の貝殻をそっとジャケットのポケットに入れた。
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