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百合や二次創作 警報発令。デニムや二輪もあるよ。

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確か…オマケ本のSSのスバティア

「執務官見習い殿」

「とりあえず、色々見てれば分かってくると思うから。」

 そう真面目な顔をして腹に力が入ってない声で言われて3ヶ月…
職場は前と変わっちゃったけど、今までどおり「フェイトそんって呼んでね。」と優しく言われたから、「フェイトさん」じゃなくてフェイトそんって呼んでいるけど未だに慣れない。
 機動六課時代から考えて1年3ヶ月。
フェイトさんを部下なりの視点で見つめてきた。さすがに仕事はきちんとこなしており、さすが執務官。といったところだと思う。しかし、しかし…彼女が私に教えたいこととは仕事以外の部分にまでかかってくることらしい…。 

「あ~ 疲れた。なんていうかツッコミを我慢するのに…疲れ切った…。」
カギを開けて家に入ってくるなりティアナはかなりゲンナリした様子でただいまも言わずに手に持っていたバッグをどさっと床に投げ出した。
 音を聞いてパタパタとスリッパを鳴らしながら迎えに出たスバルはティアナのそんな様子を見てぎょっとしながらも「おかえりティアってかなり疲れてるね。」やっぱり海の仕事ってハードなの?と言ってティアナが投げ出したバッグをひょいと持ち上げた。
 「そいや、晩御飯は?」と聞くスバルに…食べてきた、フェイトさんと。とボソボソぐったりしながら答えるティアナに「え、食べてきたって…最近毎日じゃん!」
あんまり外食ばっかりしてると太るんだからね。とスバルは言って「コーヒーでも淹れてくるよ。」とキッチンへ向かった。

ズズズ…とコーヒーなのに音を立てながら飲むティアナはやっと一心地ついたようで「やっぱり、コーヒーか紅茶がありがたいわ。」あのリンディ茶とか言うのはかなり通じゃないと分からない味よね、と数時間前に飲んできた砂糖やらがたっぷり入ったジャパニーズグリーンティーの味を思い出してすこし顔をしかめた。

 リンディさんに会ってきたんだ!いいなぁ、ティアは色んな人に会えて。と無邪気にうらやましがるスバルをティアナは…あんた、リンディ茶一回マグカップに一杯飲んでからそれ言いなさいよ、とにらみつけた。「ちょうどティーカップが切れてたから今日はマグカップで勘弁してね、沢山召し上がれ!」なんて悪意0%の笑顔で言われた日にはこちらも笑顔で飲み干すしかないのだ。
 あの親子、悪意が無いだけにタチが悪いわ…。とつぶやいた一言をスバルは聞き逃さなかった。
「てことは、フェイトさんともなにかあったの?」と聞くスバルにティアナは「あの事件の後、フェイトさんとなのはさんとヴィヴィオが家族になったじゃない?」
さいきん、なのはさんが仕事の合間とか仕事終わってからとか、仕事中に無理やりスケジュール調整(曲げたり)したりしてヴィヴィオに会いにいってたり、こっそり後ろつけて写真とったりして無限書庫の容量を多少食ったりしてるらしいのね。

 「ていうことはどういうことだと思う?」と言った。…しばらくの沈黙のあとゴクリとつばをのみこんだスバルが「つ、つまりフェイトさんとなのはさんが一緒にすごす時間が限りなく少なくなっているってこと?」と言った。
「はい、ご名答。」だからよく「ご馳走するし、一緒にご飯でも食べて帰ろうか。」たまご料理とか好き?とかいう流れになってご飯一緒に食べに行くのよ。とため息交じりに返すティアナはかなり疲れた表情だった。「しかも多分だけど、エリオ達が卵料理好きだからっていうので卵料理の店を開拓しまくったらしくてね、ここんとこ連続で卵料理ばっかりなの。」
 しかも、そんなフェイトさんが口を開けばなのはなのはなのは…っていう晩御飯…どうおもう?私、執務官の業務についてよりもあの二人の私生活について勉強してるような気がしてきたわ…。

 「ある意味、早朝訓練の後の模擬戦よりハードだね。」というスバルに。そうよー、いくら寂しいからってお冷が運ばれる前から、注文とるまでずっとため息混じりになのはなのはなのはって独り言、言ってるのよ。時々、我に返ったように「ティアナも親友はすごく大事にしないといけないんだよ。」スバルは現場に出てる子だから、ちゃんと無茶しちゃいけないよって伝えてないといけないよ、毎日怪我とかしてないかどうかティアナも心配よね?私もなのはが怪我とかしてないか本当にいっつもいっつも心配でしょうがないもの。
 
 それで始まって「ティアナも任務とか色々忙しくても親友のスバルを寂しがらせちゃいけないんだよ。」私もなのはを寂しがらせないように出張とかしてるときメールとか電話とかよくするようにしてるの。なのは優しくて強い子だから「別に平気だよ。フェイトちゃん、たった2日の出張じゃない、ちゃんと仕事に集中して。」って言ってくれるんだけど、私なのはが何してるのかとかすごい心配だから1時間おきに連絡とってみたりして…やっぱり離れてると余計気になるもの。夜もちゃんと一人で寝れてるかとか、だって私なのはがいないとちょっと寝つきが悪かったりするから…。

 とか真剣な顔して言うのよ。しかもね。「昔からよく子供が出来るとママはママになっちゃうって言うけど、あれ本当よね」なのは最近口を開けばヴィヴィオの事ばっかりで、もちろん、私だってヴィヴィオは可愛いし大好きだけど、…確かに昔からなのははフェイトちゃんフェイトちゃんって言う子じゃなかったけど、最近本当にフェイトのfの字も出なくなってね…。昔に比べて不足がちななのはとのコミュニケーションを補完しようと一生懸命すぎてちょっとやりすぎになるかなみたいなこともあって自分で反省したり、はやてちゃんにも「ちょっとフェイト執務官、職権乱用一歩手前やで。」気持ちはわかるけどシャーリーに頼んで隠し撮りはアカンよ、シャーリー面白がっとるけど、一歩間違ったら犯罪やからって言われたり。

 とか延々とサラダとスープが来て、デザートのアイスが来るまで聞かされて、合間合間にティアナはどう思う?とかティアナも執務官を目指すなら仕事以外の姿勢も私から学んでほしいのとか言われるのよ…。
 
 私、仕事以外でフェイトさんから学べるものって軽くあしらわれても喜びに変換できる発想とか、過保護すぎるくらいの愛情とか、あと、なんて言っていいか判らないけど強すぎて余りにも一直線すぎるベクトルとか、それくらいしか思い浮かばなくなってきて…。
 
 そりゃ、私だってスバルのことは親友だと思ってるけどさすがに、あれはちょっとねぇ…。というティアナにスバルは「私は一時間に一回ティアからメールが着たら嬉しいし、それだけ気にしてもらえたら大本望だよ!」とりあえず、最近晩御飯一緒に食べてなくて寂しい思いしてたからさ、今日はちょっと甘えちゃおうかなー。
 「ティアもフェイトさんから親友を大事にしなさいって言われてるんでしょ?」だから今日は一緒の布団で寝ようようよー。
 と言うスバルにティアナは「嫌よ、アンタと一緒の布団で寝たら何されるかわかったもんじゃないし。」第一アンタいっつもなにも言わずに入ってきてるじゃない、なんで毎日毎日目が覚めたらアンタが横に居るのよ。寮よりも広いからって2段ベッド辞めて2つベッド並べた意味ないじゃない。と言いながらふと頭の中で「嫌よ嫌よも好きのうち、って本当だと思うわ。いやきっと本当なのよ。」と言っていたフェイトの言葉がふっと過ぎってぎょっとなった。

 思わず真っ赤になってしまったティアナを見て「ティアー、顔真っ赤だよー。どうしたの?」と顔を覗き込んできた。「ちょ、近いのよ!スバル!」と言ってのけぞるティアナを不思議そうに見つめてスバルは「体調悪いんだったら無理しないで歯磨いてもう寝よう?」今日は冷えるから一緒の布団で寝たほうが暖かくっていいよね。とテーブルのうえを片付けて洗面所にさっさと言ってしまった。

 「…なに、もしかして一緒に寝るの決定?」
取り残されたティアナはスバルの相変わらずの強引さと嫌よ嫌よも好きのうち。というフェイトの言葉に呆然としていた。じっと動かないティアナを見て、歯磨きを終えたらしいスバルが「ティア、動けないんだったら抱っこして行こうか?」と言うものだから、「じ、自分で布団くらいまでいけるわよ、行けばいいんでしょ。」とすくっと立ち上がって歯磨きを済ませて布団に潜り込んでしまった。後で部屋に入ってきたスバルがじゃ、電気消すよー。と言って布団に潜り込んできた。

 「なによ、確かにちょっと暖かいじゃない。」そんなことを思った執務官補佐はスバルに背を向けるように寝返りを売ってそっと目を閉じた。




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Harmony and Lovely

「Harmony and Lovely」


仕事をなんとか無事に終わらせて、家のドアを開けて「ただいま」という挨拶をした瞬間、もう一つの大切な今日が始まる。

スバルは職場が変わり、そして住む家も変わったときからそんなことを考えて家に帰るようになっていた。

親友のティアナと住む場所も勤務先も一緒だったころには当たり前だった、何気ないやりとりで心が暖かくなったりすることの大切さや家に帰ればお互い本物の家族のように思い合うことのありがたさをもっと大事にしていこうと思ったことがきっかけだった。

同じ屋根の下で生活している親友と一緒に晩御飯を食べる時間というのはそんな一日のうちでもかなり大切な時間だと思う。

そんな時間の話題として今日波打ち際で見つけた桜色のかけらと、それを見つけたおかげで思い出すことが出来た色々なことの話をしたらティアナはなんて言うだろうか。きっと「あんたのそういうセンチメンタルでお花畑な頭の中がほん 
と、うらやましいわ。」なんてことを言って呆れた顔をしながらも、きっと心の中ではスバルが思い出した色んな大切なことを多少の差こそあれ、自分も同じように記憶の片隅から引っ張りだしてくれるに違いない。
「ティアはああ見えて結構な感動屋さんだから。」スバルはそんな風に考えながら先に仕事を終えて家に帰っているであろうティアナにこれから帰宅するよ、という通信を入れる為に胸元に揺れているデバイスのマッハキャリバーに回線の確保を依頼した。
 「あ、ティア。今日はいきなり遅くなっちゃって
ごめんね。これから家に帰る。多分あと一時間く
らいでただいまって言えると思う。」

そんなスバルにティアナが返してきたのは「仕事
だったんだから謝ることじゃないわよ、無事に解決できたみたいで安心したわ。」まぁ、道草しないで早
く帰ってらっしゃいよ。というそっけない返事だった。通信を終えたスバルはいつもと変わらない親友の様子を想像して思わずにこりと微笑んだ。

訓練校時代から、スバルとずっと一緒に居てくれているティアナは言葉遣いはきついが、なんだかんだでいつもスバルのことを支えてくれていた。ティアナが居たからこそ、今のスバルがあると言っても過言ではないのだ。

頼れる相方、喧嘩友達、親友。色んな言葉でその存在を表わすことは出来るけれども、そんなティアナへの気持ちを表わす言葉は「ありがとう。」だったり「大好き。」だったり決して沢山の種類があるわけではない。

スバルがティアナに大好きと言えば「何も出ないわよ。」と言い、ありがとうと伝えれば「アンタの為じゃないわよ。」と言い、「大事だよ。」と言えばスバルに心配されるほど落ちぶれてないわよ、といったひねくれた言葉を返してくる。
ティアナなりの照れ隠しだったりするのだろうけれども、時々ちょっと素直に受け止めてくれればいいのになぁ、などと思ったりもする。
機動六課が解散してしばらく経って、住居も職場も変わって、最初に出会った頃からは随分打ち解けてきたなぁと思ったりすることはあっても、ティアナのそっけない照れ隠しを含んだ態度は変わることは無い。
とはいえ、時々ちょっと嬉しそうだったり、忘れた頃にこの前はありがとう、とかそんなことをボソリと口にしてくれたりと、あまり器用ではないやり方で応えてくれたりもする。

ふとスバルは今日、家に帰ってただいま。と言ったらそのままティアナをぎゅーと抱きしめてありがとう。と伝えようと思った。何があったわけではないけれども、ピンク色の欠片が思い出させてくれたいろんなこと。そこにはもちろんティアナとの思い出やそんなものも沢山あった。そういうのを言葉以外でもティアナにきちんと伝えたい、そう思ったのだ。

きっとティアナは真っ赤になったり、セクハラだとか言ってスバルの頬っぺたを思いっきりひっぱったりするかもしれない。
そんなことはなんとなく予想はできるけれども、スバルは今日だけは絶対ティアが呆れるくらい長くしっかり抱きしめよう。強いけれど、薄い貝殻みたいに優しくて割れてしまいそう所もあるティアをそっと、それでもぎゅっと抱きしめよう。折角思い出した大切なことを、そして本当に大事な人がすぐそこに居ることのありがたさを忘れないように、そしてその人にどれだけ自分が大切に思っているのかを伝えるために。と、そんなことを考えながら真っ青にひたすら広がる海と空をもう一度眺め、波打ち際を後にした。



Melting point

「Melting point 」


本来オフだった午後が突然のアラートでオフィス待機に変更されたのが午後一時ちょっと前。
スバルのルームメイトであり、元同僚のティアナ・ランスターにオフタイム返上の連絡と今日の遅めの昼食の予定を次回休暇のタイミングに変更する旨の思念通信を入れたのが多分午後一時丁度。
スバル・ナカジマが所属する特別救護部隊に協力依頼が来たのが午後二時三十分。
スバルが慌しく出動準備を済まし、他の隊員達と隊員輸送用の大型ヘリに乗り込み、現場が視界の端に捕らえられてきたくらいの場所まで接近した時間は目標よりも五分早い午後二時四十五分。

そしてその事故がスバル達が所属する部隊の到着を待たずして無事解決したとの連絡が入り、スバルがオフタイムを取り戻したのが午後三時。

 幸い大規模な事故にも関わらず、怪我人の類が出ることも無かったとの報告を受けたスバルはほっとした様子の隊員達と共にオフィスに戻り報告書を作成していた。

簡単な内容にも関わらず事後報告の書類作成に手間取ってしまったスバルは運悪く部隊の先輩隊員から現場付近で検証を行っている別隊への資料の提出と今まさに書き終えた書類をもっての任務完了及び引継ぎ報告を表向きは書類作成者であるからという理由と「住居がどちらかと言えば現場のある方角であるうえに一番の新入りだから。」という単純明快な裏の理由で要請されてしまった。

無事に仕事を終えたスバルは事件現場からほんの目と鼻の先にある砂浜で実は今日の午後はオフタイムだったことを思い出し、少しだけぼんやりして帰ろうと靴とソックスを脱いでまだひやっとする波打ち際にそっと足を入れた。

しっとりとした砂の感触が心地よく、さらさらと足の甲を寄せる波が撫でては引いていく。

「そういえば、海なんて来たの一年ぶりくらいかもしれない。」

足元からちょっと遠くを眺めるとクリアな水はスバルから少し離れたやや深くなる辺りから鮮やかなコバルトブルーになり、その青い海が続く限り白く海面を撫でる波とまだ淡い空の青とで視界と頭がいっぱいになる。
仕事柄、家の外で平和な時間を過ごすことは普段ほとんど無いといってもいいスバルは遠くやら近くを悠々と飛んでいるカモメだったり、対岸の霞んで見えるミッドチルダの中心にある高層ビル群だったりを漣の音以外何も聞こえない浜辺で本当にぼんやりと眺めていた。
いつもならあのビル群の真ん中にある一番高い管理局の一角で書類仕事に悪戦苦闘したり訓練場で汗を流したりしているんだよなぁ、なんてことを考えながらちょっと深くなっている方へ歩いていった。

待機から出撃への緊張の余韻をほぐしてくれているような足をちゃぷちゃぷと撫でる波が冷たくて大きな深呼吸ともに伸びをしてそのまま規則正しく波の打ち寄せる水面に目を向けた。

よく見ると透明な水の中は以外にも様々な色彩が隠れていた。砂、海藻、貝殻など様々な細かいかけらが波のリズムに乗ってゆらりゆらりと動いている。
 ピンク色のちいさなものがヒラリと水中を舞ったような気がした。
スバルが「桜貝」そんな名前とそういう貝があったということを思い出したのは何度かその欠片が目の前をひらひらと往復した後だった。

「さ く…ら?」水中でゆらゆらと舞う貝殻に一年ちょっと前に嗅いだ事のある香りが頭の奥で蘇ったような気がした。
あれは草の匂いだったろうか、太陽の匂いだったろうか、花の匂いだったろうか。

 薄くけぶったような青空に薄いピンク色の花びらが大量に舞う。そしてその下には仲間達が少し緊張した面持ちでそれぞれのデバイスを構えている。スゥ…と一瞬全身に冷たい水が透り抜けるような感覚の後、一斉にバリアジャケットにセットアップした仲間達。
そしてその数分後、結局全く歯が立たなかった先輩達の余裕の笑顔。
結果的には模擬戦で大敗したものの、機動六課フォワード新人達の表情はとても柔らかで楽しそうだった。
「ああ、本当に私今幸せだ。」なんて隣で同じくボロボロになりつつも珍しくアハハなどと声を上げて笑っている親友の顔を見ながらしみじみ感じたことも思い出した。

決して忘れていたわけではないけれども、ひたすらこっちに向かってやってくる毎日の中で確実にそれらの記憶は色褪せて、くすんで、だんだん頭の奥へと押しやられてしまっていた。
 日々新たに手にするものでぎっしりいっぱいになりそうな自分の中でそんな大事な記憶やそれに繋がる大切なものが決して埋もれてしまわないように、毎日毎日そう意識して過ごしていたはずなのに。この瞬間まで思い出の輪郭も描けないほど薄れてしまっていた。
ひらひらと水の中を頼りなくゆれる桜色の貝殻。
そんなものが自分には守らないといけない、無くしてはいけないものがあること。
積み上げてきたものがあること、包んでくれるものがあること。そんな当たり前すぎて忘れてしまっていることを思い出させてくれたのだ。

足をさらさらと撫でているまだ泳ぐには冷た過ぎるであろう水の感触と塩の香りにふっと我に返ったスバルは「ありがとうね。君のおかげで大事なことを思い出すことが出来たよ。」そんなことを小さくつぶやきながらそっと水の中に手を入れた。手のひらの上でさらさらと桜色の貝殻が波の行き来にそって揺れている。
 ふと顔を上げて回りを見渡すと、水の中のそこかしこに桜貝が舞っていた。まるであの日の空のようにひらひらとピンク色が青い水の中に舞っていた。

それらの一つ一つに誰かの大事なものが詰まっているような気がしてなぜか鼻の奥がツンとした。

その瞬間、痛かったことや悲しかったこと、悔しかったこと、楽しかったこと、嬉しかったことそんなものの塊が自分の中に一気に吹き荒れた。

「もしかして私はちょっとだけ泣きたかったのかもしれないな。」ふとスバルはそんな風に思った。
これまで夢に向かって一直線に走ってきた。そして今は夢の真っ只中に居る。家に帰れば大事な親友もいる。この世界の色んなところに大事な家族や仲間や先輩がいて、それぞれ違うものと戦ったりそれぞれの大切なものを守ったりしてるけど元気で居てくれている。
そんな当たり前になっていることへの感謝を忘れていたわけでは無いけれども。改めてこんな奇跡みたいな幸せの中に自分が居ることのありがたさ。そんなことを考えているうちに、いつの間にか涙がスバルの頬をぬらしていた。

あの日見た桜の光景と、今日感噛み締めた今の自分があることへの感謝の気持ちを繰り返し押し寄せてくる波のような毎日に埋もれさせないように。
 これから先もこの薄い貝殻のように壊れやすくて綺麗で大切なものを守っていくために、守るために手にしているものはちょっと力を込め過ぎると割れてしまうことを忘れないためにスバルは手のひらの上で揺れる見た目以上に薄いそれらが割れないように掬い上げてそっと指先で撫で、そしてそのまま二枚の桜色の貝殻をそっとジャケットのポケットに入れた。

once upon a time

「 once upon a time 」


 ティアナ・ランスターが改定されたIDカードを受け取り、自室に戻ると机に座ってどうやら書き物していたらしいルームメイトであるスバル・ナカジマが顔を上げてお帰り!ティアと声をかけた。
 
「どうしたの?こんな時期にIDの書き換えとか珍しいよね。」
資格とか免許とかの更新の時期だっけ?もしかして私すっかり忘れてたりする?ねぇ、ティア?
 ただいまを言う間もなく次々と飛び込んでくるクエスチョンマークの少しうんざりしながらティアナは答えた。
「ちょっと静かにしなさいよ、スバル。あんたが持ってる免許や資格の更新はまだ先でしょ。」私はただバイクの免許とったからそれをIDに追記してもらってただけよ。と。
 
 「ティアッ!最近オフとか訓練してないときに忙しそう何処か行ってると思ったらバイクの免許とってたんだ!」
いつの間にそんなに接近したのか、ティアナのすぐ隣でスバルはティアナが手に持っていたIDを見せて見せてと軽く引っ張った。ティアナは「はい、別に項目がひとつ増えただけで後はアンタのと変わらないでしょ。」と言いながらスバルにIDを手渡し自分の机まで歩き、よっこいしょっと椅子を引き出して腰を下ろした。
 「バイクの免許取ったのって、いきなりだけどなんで?」てっきり今度の試験の勉強してるのかと思ってたのに。とかなにやら頭に思い浮かぶだけの疑問と驚きの単語を一気にティアナにぶつけるスバルにティアナは「うっさい。私はあんたと違って任務 
中に高速移動する手段が無いから免許取っただけよ。」とため息をつきながら応えた。
そう、純粋に任務での利便性を追求する為に免許を取っただけなのだ。別にスバルがローラーブーツで疾走しているとき、どんな景色が見えているのかちょっと見てみたくなったとかそういう単純な好奇心が多少なりとも在ったわけではなく、自分の足で走るよりも作戦の幅も広がり、高速移動を経験することで状況判断の材料も増える等のメリットも考慮からである。などと一人で言い訳じみたことを考えていた。
 …そりゃぁもちろんオフの時だってバスを待ったり、接続は悪くないけど本数に制限のあるレールウェイの乗り換えを気にしなくても良かったりするけども、とティアナはまだ横でへー、やらほーやら、やたら感心しているスバルを見つめながらバイクの免許取得の理由をつらつらと頭の中で繰り返していた。

 ティアはほんとに頑張り屋さんだよね。と感心した様子で新しい資格が追記されたティアナのIDを眺めていたスバルが不意に「私もヘルメットとか買わないとだよね、ティア。」とにっこりしながら言った。
 反射的に「誰があんたを後ろに乗せるって言ったのよ。遊びで免許取った訳じゃないんだから。」と、ついキツい言い方をしてしまったティアナの目をまっすぐ見つめたスバルが続けて
「だって、私とティアって大抵一緒に自主トレしてるか街に遊びに行ってるかだから。当然乗せてくれるもんだと思ってたけど違うの?」一緒にアイス食べに行くとか本屋さんとか行くのってちょっと想像したのに。「ねーティアー!一緒にツーリングとか行こうよー。」と食い下がってきた。
おまけにティアナのIDを手に持ったままにじり寄ってくる。
「あー、もう分かったわよ。運転に慣れたらちゃんと乗せるわよ。」とティアナは面倒臭そうにスバルから目を逸らせてハイハイ、といった感じで言った。  
それを聞いたときのスバルは思わずありがとう!ティア。とはしゃぐなり、ティアナに抱きついた。

 もちろん、その次の瞬間スバルの脳天にはティアナの握りこぶしがグリグリと押さえつけられていた。
スバルは「痛いよ、ひどいよティア~。」などと涙目になりながらもそのうちバイクに乗れるのが嬉しいのかティアナにかまってもらえるのが嬉しいのか分からないが、ニコニコしながらジンジンする頭のてっぺんをさすっていた。


 最近、ティアからの現場指示がすごく変わってきたと思うんだよね。
任務にオフの日の移動手段にと、ほぼ毎日バイクを足として使うようになった頃、自室でメールを書いていたのか一心不乱に紙にペンでなにかを書きつけていたスバルがティアにふと思い出したように言ったことがあった。

「変わってきたって?どういうことよ、スバル。」ティアナは将来の試験に向けた勉強の手を少し休めて隣に座る相方の方へ椅子をクルっと回転させた。
 んーっとね、と少し考えた後で、「なんていうか一緒の景色を見てるって感じの指示でさ、ホント、前に比べて私が動きやすいっていうか。動作に余裕が 
出来る指示だって言うか…。」
なんていって良いか分からないけど、と段々言葉の終わりに近づいてくるにつれて聞き取れない感じになってしまったが、一瞬置いて「ありがとうね。ティア!」とはっきりティアナの目を見てそう言った。

 いきなりありがとうとか指示が変わったとか言われて面食らったティアナだが、
「部隊メンバーの安全確保と的確で効率的な現場指示とかなにやらってバックスの義務でしょ。」
まぁ、アンタがすこしでもやりやすくなってるんなら私としても嬉しいわ。私もスバルもまだまだ上を目指していかないといけないしね。と言って「ほら、
んたメール書きかけなんだったら早く書き終わらないと消灯時間になるわよ。」と参考書へ再び目を
落とした。

 参考書の上に書かれた文字を目で追いつつも、ティアナはさっきスバルに言われた言葉について考えていた。参考書に書かれている文字列の内容は全く頭に入ってこない。少しため息をついて栞を参考書に挿んで頬杖をついてスバルの言葉の意味をじっくり考えることにした。
 確かに、バイクに乗るようになって高速移動時に視界が急激に狭くなることや視界がどうしても下向きになりやすいこと、加速、減速やコーナリングに必要なスペースやエネルギーについて、路面状況、天候をはじめとした車輪で路面を走るということ自体のリスクについて以前に比べて格段に知識と経験が増え、スバルに対する指示もそのあたりを踏まえたものになってきているのだろう。

 ティアナは知識、経験だけではないんだろうな、とふと考えた自分に少し慌てた。

考えてみればスバルとの腐れ縁コンビも結構長く続いている訳で、それなりにいつも一生懸命で、心の中にある怖いとかそういう気持ちを押さえつけてとにかく前へ前へ急ぐスバルの安全と人を助けたいんだという気持ちを第一に考えてあげるのが私の役目なんだろうし、あの子だけじゃなくて私だって誰かが痛いとか苦しいとか、怖いとかそんな思いしてるのを黙って見ていられる訳じゃない。
 スバルの場合、多少無理してもって突撃しちゃったりするから、そんな行動が原因でスバル自身が痛い思いとか苦しい思いをしたりしたら私はスバルの相棒だからなおさらそんなの見たくないわけで、
あの子が、無茶しないようにそんなに無理しなくても任務を終えて笑顔で私と合流できるように、明日も明後日も一緒に居られるようにって本当にそれを最優先に考えてるっていうのに。
 と考えた所でティアは「なんで私がこんなにバカスバルのこと考えないといけないわけ!?」と我に返った。そして少し恥ずかしいような腹立たしいような気持ちになって参考書を乱暴に閉じた。


 「あ~でもちょっとほっとしたかなぁ。」手紙を書いて終わったのかぐっと伸びをした後、椅子を引きながらふーっというため息とともにスバルが言った。
今度は何よ?という表情のティアの目を見つめながら「だってさ、ティアってこれまで任務とかそうい 
うのにはほんっとに一生懸命だったじゃない?あ、
もちろん今も一生懸命だよ?休みの日もずっと勉
強とか訓練とかしてきたし。」だから何よ、というティアナの視線を受けて少しウッと身を引いたスバルだったが続けて「そんなティアがね、バイクをち
ゃんとオフの日も乗ってるっていうのがなんか嬉しくて。あ、もちろん便利だからっていうのは分かるんだけど。」 なんていうか余裕じゃないけどちゃんとペースは作ってるっていうかなんていうか…とまたしても言葉が尻すぼみになってしまい
「んー…」と頭の中で言葉を組み立てようとしていたスバルはしばらくしてうまく言い表すことを諦めたように「ま、とにかくほっとしたんだ。」と勝手に話を終わらせてしまった。
 
 ティアナは、「何が言いたいのか全然分からないわよ、第一なんであたしがアンタに任務外のところで
心配して貰わないといけない訳?」私、ヘマしてバイクでこけたりなんかしないわよ。と言っていきなり話を始めたと思ったら結局尻すぼみに終わらせたスバルに言った。

 訳分からないわよ、と言うティアナを見つめていたスバルはしばらく考えた後、
「えっとね転倒するとか、そういうのじゃなくてメンタル的な意味で安心した。っていうか…」
…うん、それだね。ティアって真面目が銃持って歩いてるみたいなところあるから、だからちゃんと息抜きしてるか時々すごい心配になるんだよね。いつも気を張ってるとすごく疲れるでしょ?ほら、私なんかシューテイングアーツで体動かしたり、ギン姉とアイス食べたりとかそういうので発散してるとこあると思うんだけど、ティアって私と遊びに行く以外あんまりそういうことしてるっぽく無かったから。」だから、ちゃんとそういう手段ていうか趣味じゃないけど…んー、勉強と任務以外のこと見つかってよかったぁと思って。それでちょっとほっとしたんだ。
 途中でちょっと考えながらも一気にまっすぐティアナの目を見つめて言った。
「アンタに余暇の過ごし方とか気分転換とか心配されるような筋合いは無いわよ。」とそっぽを向いて
腕を組んだティアナだったが「別に、特別なことし
なくてもアンタと一緒に話したりご飯食べてれば
楽しいし、それだけで結構満足してたりもするか
ら…。」とちらりとスバルの方に目をやりながら最後にありがとう。とボソボソと口にした。少しだけ赤くなっていたように見えたのはきっとスバルの気のせいだろう。

 そんなティアナを見たスバルはにっこり微笑みながらひとつ思い出したように言った。
「あ、そうだ!、ティア!そろそろ私後ろに乗っけてくれても良いんじゃないかな?免許取ったときに
バイクに慣れたらちゃんと乗せるわよって言ってたよね?」実は前からヘルメットちゃんと準備し
てたんだよね~とティアの持っているタイプと同じヘルメットを机の下から引っ張り出してきた。本当にいつの間に準備してたのやら、と半ばあっけにとられるティアナを置いてけぼりにしてスバルは「じ
ゃーん!ちなみにティアのと色違い!」全く同じだとさ、どっちがどっちか分からないし、ティアが恥ずかしがるもんね。などと勝手なことを言っている。
 
 すぅーっと息を大きく吸い込んで深呼吸したティアナは一度大きなタメを作って「ほんっとに訓練校
の頃から言ってるけど…。」と口にした。次の瞬間、
『あんたのそういう強引さは多少なりとも見習うべきところだわ』っでしょ?ティア!」
ティアナの口癖を見事に真似をしたスバルがティアナの言葉をかき消した。
一瞬スバルとティアナの間に沈黙が降りた。

 「うっさいスバル!アンタはもう!ちょっと甘いとこ見せたらすぐ調子に乗って!」そう言ってちょっと、いやむしろかなり痛いくらいの勢いでティアナはの柔らかい頬を引っ張った。
 「いたいいたい!ごめーんて…ゆるしてよーティアー」と言いつつもなぜか嬉しそうなスバルを見ていると腹を立てているのもバカらしいと思えてしまったティアナは「全く…。」とため息を一つついて、「そうねぇ…もうそろそろ春本番って感じだから少し遠出もいいかもね。」そう言ってミッドの地図データをデスクトップに呼び出した。
 スバルはまだジンジンする頬を撫でながら椅子をティアナの机まで引っ張って、腰をかけた。
「私、山行きたいな!山!!海はちょっとまだ寒い
し、せっかく海二人で行くんならもうちょっと暑
くなってからの方が楽しいしね!」そうなると、ティアも水着買わないといけなくなるね。夏が近づいたら二人で一緒に水着見に行こうね!と本当に嬉しそうに話すスバルに「ちょっとなに一人で話し進
めてるのよっ!」第一アンタだって水着もってないじゃないのよ。と突っ込みを入れるティアナだった。
結局そんなやりとりを繰り返しながら消灯時間までスケジューラーとマップを覗き込みながらの二人だけの作戦会議はにぎやかに続いていった。

 

Do You Believe In Magic ?

 

「 Do You Believe In Magic ? 」


さすが、スポーツタイプは良く走るわね、と赤いバイクを走らせながらティアナは感心していた。

機動六課に配属になり、初めてのオフの日のこと、
 「貸すのはいいけど、こかすなよ。」と言いながらティアナにとっては仲の良い兄のような機動六課のヘリパイロットのヴァイス・グランセニックが貸してくれたバイクだった。
 
 快適なスピードで景色が流れていく。
体に感じる振動と流れる景色と耳に届く風の音が心地よい、髪の毛を風になびかせながらバイクのハンドルを握るティアナは、頭の中から余計なことを全部追い出してバイクの運転と風の音と流れる景色だけに集中していられるツーリングほどの贅沢は無いんじゃないかしら、と思いながら郊外のワインディングロードを軽快にとばしていた。

 ふっとバイクのエキゾーストに紛れて自分の口から「スバル」という親友の名前が飛び出したことに気が付き、驚いたティアナは「なんだってちょっとぼんやりしてただけでスバルの名前を独り言で口にしないといけないのよ。」と思うと同時に、もし聞こえてたりしたら、なんて言い訳すればいいのよ。などと一人で慌てていた。
 そして、その少し後で「聞こえちゃってても…まぁいいか。」とふと思ってしまった自分にさらに驚きつつ、さっきの独り言をごまかすわけではないけれど、今度はちゃんと聞こえる声ですぐ後ろに乗っている親友にいつものように呼びかけた。
「スバル!ちょっと飛ばすから、ひっくり返ったりしないで
よ!」
声をかけられたスバルと呼ばれた少女が前に乗っているティアナに体をくっつけるようにして耳元に向かって大声で応えた。
「大丈夫だって!しっかり構えておくし、なによりティアは運転上手だもん!」
それを聞いたティアナはちらっと右手に握るスロットルに目をやって「よし、それじゃぁ、いくわよ!」
と言って少し腰を落としてじわりとアクセルスロットルをひねった。
スバルも腰を落とした体制になり、加速に備えたのがしっかりとしたサスペンションを通じて伝わってくる。
 少しアクセルを大きく開ける。バイクのエンジンの回転数がパワーバンドに入ったことをタコメーターの針より早く排気音と体全身で感じる風圧が教えてくれた。
 目の前に迫る、走っていると抜けるような青空が視界の8割を占めるんじゃないかと思われるくらいの急勾配な上り坂へ向けてティアナはさらに右手のアクセルを大きく開けた。
思わず目を細めたくなるほどの風圧と空の蒼さが全身を包む。
 ティアナはバイクに乗っているとき「人はどうしてある程度のスピード感と空の青さの中に置かれるとこんなにテンションが上がってくるのか全く不思議でしょうがない。」と、考えることがある。
「きっとスバルは遊んでるときにこんな理屈っぽいこと考えたりしないんだろうな。」と思い、こんなときにまで変に堅物な自分に苦笑しながらギアを一つ引き上げた。
 
 かくいうティアナも同じバイクの上で同じ風と景色、匂いを感じてくれているであろう親友のスバルが今、一緒に居てくれていることがたまらなく嬉しく、おまけに天気も道路もすべてグッドコンディションという条件のおかげで結構盛り上がった気分になってきているのである。
 しかし、ティアナは、あからさまにはしゃいだりすることが少し気恥ずかしかったりする性格である為に、この盛り上がった気分を素直に吐き出す良いきっかけを密かに待っていたりもしていた。 
そもそもこういう場面なら真っ先に嬉しいとか楽しいとかなんとか、かなり大きなアクションをもってスバルがはしゃぎ、それに対してティアナがちょっとあきれ気味に同調する。というのがいつものパターンだったからである。
しかし、後ろに乗っているスバルにまだそんな様子は見られず、ティアナはそのおかげで自分がちょっとアハハなんて笑ってみたいような今の気分を開放するのは気が引けるとかそんなことをぐだぐだと考え続けていたのであった。

 一言で言えば、「スバル、あんた早く楽しいとかなんとか言って盛り上がりなさいよ!」てことなのよね。
と自分で現状を分析などをしまうあたり、ちょっと勿体ないのよね、ほんとは。とティアナは一人考えていた。

 すると、後ろから「ヤッホゥー!」なんて陽気な叫び声が聞こえてきた。それを聞いたティアナは内心ちょっとほっとしながら「ちょっと、スバルはしゃぎすぎ!」などと大声で返した。しかし、その後ティアナ自身も結構大きな声でアハハと笑いながら確かに楽しいわね!等とアクセルを開けながらこの楽しい時間を満喫するようになっていた。

こんな風に大声で自然に笑える瞬間をくれるのはいつもスバルなのよね、とこんなときにティアナはいつも思う。
 
 スバルの第一印象は、やっかいなルームメイト兼仮パートナーだったように記憶している。魔法の制御もめちゃくちゃ、能天気な考えでティアナのペースを乱す、おまけに変に人懐っこくて遠ざけようとしてもズカズカと壁を越えてくる。
 仮パートナーの期間が終わるまでの間、ティアナの足を引っ張らない存在で居てくれたらそれだけで良かったはずなのに、結局なんだかんだで数年間仕事の頼れるパートナーとしてはもちろん、休みの日まで一緒にツーリングに出かけてアハハなんて笑いあう親友にまでなってしまった。
   
 スバルに出会ったころのティアナは 執務官になるという夢以外のことは全てその夢までの通過点であったり手段でしかなく、そんな日常は今考えたら白と黒のモノクロームで描かれた世界みたいなものだったのだろう。

 訓練校に入学して数ヶ月後、スバルのことをナカジマではなく「スバル」と呼ぶようになってティアナの中のモノクロだった世界が少し変わった。
 
一緒に訓練校を卒業して、同じ部隊、同じ現場で任務に就くようになったころにはモノクロの世界がパステルカラーの世界と言えるくらい変わっていた。
 
毎日毎日の生活の中で、スバルが好きな食べ物をいつの間にかティアナも好きになっていたり、書類整理が一段落したときに隣のデスクでうんうんうなっているスバルに思念会話で話しかけたり、傘を忘れてた日の帰り道、後からスバルが追いかけてきて一緒の傘に入って帰ろうよと声をかけられたりしたとき。そんな瞬間一つ一つの度にきっとティアナの心の世界に少しずつ色彩が増えていたのだろうと思う。
 自分達はもちろん魔導師で、魔法というものを生業としているが、それとは別にこのスバルという少女は自分にとってある特殊な効果を発生させる魔法を使う「魔法使い」なのではないのか、と考えるときがある。ごく自然にちょっとしたことでティアナの心のキャンバスに色を増やしたり、忘れられない思い出を作ったり。これまでの二人が過ごしてきた時間の中でスバルの存在はまさにティアナにとって特別なものになっていたのだった。
 
そして今、機動六課でスバルと一緒に過ごす日々はとても鮮やかで、そこにはスバルを中心に仲間や上司達といったそれぞれティアナの心のキャンバスにさらに色と広がりをくれる人が沢山いる。

 バイクが長い上り坂を越えた。目の前にミッドチルダの街が大きく開けているのが目に飛び込んできた。コンクリートとガラスとアスファルトと金属で作られた街は山の緑や空の青、海のきらめきが鮮やかな視界の中でモノクロームのどっしりとした質量をもった存在として目に映る。
 あんな無機質に見える街の中で沢山の人々がそれぞれ今のティアナが心の中に持っているようなビビッドな世界を日々作り上げながら生活をしている。 
そして、今自分達はその生活を守るために戦っている。坂道の頂上からの光景はそんなことをティアナに考えさせた。
 
執務官になる夢はもちろん今でも変わらない。しかし、執務官になることそのものが夢だった昔とは違い、機動六課に入ってからのティアナには執務官になって何を成すべきか。何をどうして守りたいのか、そんなことがはっきりと見えてきたのである。
 今はこれまで思い描いていたよりもずっと鮮やかに、生きている現在だけでなくこれからの未来もティアナの心の中に存在するようになっている。 
 そしてその未来では今、後ろで大はしゃぎしている親友ともいずれ職場は離れてしまうかもしれないが、きっと今と同じようにティアナもスバルもこの世界に生きる人々の未来を守っているに違いない。
 
同じ夢を持つ二人のルートがいつか分かれてしまう日まで、できるだけこうやって同じ景色を一緒に見ていたい、そして、その後再び同じ道を走るようになる時までそれぞれが変わらない想いのまま居られる様に、今こうして一緒に見ている景色を鮮やかに心の中に残しておきたい。ティアナは最近よくそんな風に考えるようになっていた。
 

ちょっと自分が感傷に浸っていたことに照れくさくなったティアナは、「街に行った真っ先にらあんたの大好きなアイスクリームを食べに行くんだから、しっかり気合入れてつかまってなさいよ!」とスバルに声をかけた。
「了解!ティア!」しっかりティアに掴まってるから大丈夫だよ!そう言って抱きつくようにティアナにしがみついたスバルにティアナは「私じゃなくて、バイクにつかまんなさいよ!」と一瞬目を向け、言い放った後、日の光に照らされて銀色に輝いて見えるミッドチルダの街に向けてスロットルを全開にした。

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たまじま
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2011年3月:二次創作を再起動しました。
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