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百合や二次創作 警報発令。デニムや二輪もあるよ。

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花火が照らすもの(江利子とくま)

「花火が照らすもの」

花火職人になりたいわ、私。
 目の前で一人の少女が呟く。

花火職人、ですか? 自分の耳にした言葉が間違いでないこと、そして少女が発した言葉を
もう少し掘り下げるために男は娘の言葉を繰り返すように問いかけた。

「ええ、花火職人よ。」だって、素敵じゃない?そう応える彼女の手元には湾岸花火大会の告知が
一面に書かれてある頁が開かれたタウン情報誌があった。

調べてみましょう、どうやったら花火職人になることができるのか。
さらりと口にした少女に「本当に、なるつもりなんですか?」と私はさらに質問を投げかけた。
彼女は「分からないわ。でも今はなりたいの。なるかどうかは別にして、興味の対象について
色々考えたり調べたりすることはなんら悪いことではなし、むしろ推奨されるべきことだわ。」と
言い、シャリと乾いた音を立てて椅子を引いた。

 男は慌てて半分程度飲みかけだったアイス珈琲をストローから乱暴に吸い上げ、卓上の透明な筒に
入っていた伝票をクシャリと手に取って彼女よりも先に立ち上がった。
 いくら突発的に席を立とうとされたとは言え、女性に支払いの伝票を手に取らせることはしたく
なかった。たとえ非常勤の子持ち貧乏教師であっても俺は男でこの彼女とデートしているのだ。

そんな男の様子を見た江利子はやわらかく微笑み、さぁ、行きましょう。と言ってゆっくりと
ハンドバッグを肩から下げた。

 冷房の効いた図書館までの道のりは駅から少し離れた喫茶店からさらに住宅街に向かって歩かなければならない。徒歩で10分くらいだろうか。
 身体の動きに合わせて周囲の熱を含んだ空気がゆらりと揺れるのが感じられるような密度の暑さ
の中歩く男は
 「どうして、花火職人になろうと思ったんですか?」と涼しい喫茶店で聞き逃したことを口にした。
脳裏には見開かれた花火大会の告知に使われていた大輪の花火の写真が浮かんでいた。
 右下のほうに小さく写る観覧車の数倍の大きさで夏の主役は自分だといわんばかりの

 花火そのものは私も美しいと思うし、毎回楽しみにしているの。打ち上げ花火はもちろんこと、
友達や家族とバケツを囲んで騒ぎながらする小さいのも。私の家族は毎年バケツを囲んで花火を
するのよ。しかもちゃんと浴衣に着替えて。と何かを思い出した彼女が小さくフフフと笑う。
 彼女の兄達が彼女の浴衣姿を見たいという理由から毎年子供の頃からそういうことになっているらしい。

 男はふと、去年の夏に娘とアパートの狭い駐車場から抜け出して近所の瓦まで手を繋いで
花火に火をつけに行った記憶が蘇った。今は小さいあの子も、いつか思い出すのだろうか。
そしてだれかに小さく笑いながらやぶ蚊と格闘していた父の姿を伝えたりするのだろうか。

今日、雑誌を読んでいたでしょう。そこにのっていた写真を見て思ったの。
私、いままで花火しか見ていなかったのね。って。
 なんて勿体無いことをしていたのかしら。そう言って少し歩みを緩めた彼女は私を振り返って
だって、花火を観てきれいね、とか凄いわね。と言っている人々の表情の方が何倍もきれいで
多種多様だと思わない?
 打ちあがる花火は多くて数先発。それを観る人々は数万人いるのよ。と。
私は打ちあがる花火も観たいし、それを観ている人々の表情も見たいのよ。

ああ、人と親しくするというのはこういう面もあるものだ。と今更ながら実感した。
同じ花火という対象についても考え方、捕らえ方は人それぞれ。まさに十人十色なのだ。

「花火職人になれば、その表情を見ることができると思っているんですね?」と男が口にした。
花火職人は作った花火を打ち上げなければならない。決して観る側の様子など伺えない場所で。

 彼女は先回りして言った。「私が言いたいのは、直接見ることができなくても、それを観る資格
は花火職人にならないと無いということよ。」と答えた。
花火を見に行くとき、私たちはあくまでも花火を見に行くのよ。それを楽しむ皆の顔を見に行っているわけ
ではないの。 それに、自分の作品とそれを観る人の反応や感想を得ることのできる人間は創った人間
だけなのよ。そう思わない?
 
そういうことだったんですね。と男は目の前の一気にしゃべり終えて分かる?という表情を浮かべている
少女へ答えた。なるほど、そういうことか。確かに、納得できる理由だった。

だからと言って花火職人になる方法やら花火職人について調べる必要があるのだろうか?
 そこまで考えて男は思った。目の前にいる少女は必要の有無ではなく、興味が歩かないかで
行動する人間だったのだ。興味があるから調べる、実践する。それ以外の理由などあろうはずがない。

「江利子さんは、昔からそうやって興味があるものについて色々調べたりしてたのですか?」
何気なく尋ねた男に目の前の少女は「あたりまえじゃない、興味の対象に一生懸命になるのって
皆沿うじゃないの?」私は自分が面白いと思ったものには手を抜かないの、徹底的にぶつかるのよ。と。
 だから、私小さいころからの夢とか面白かったことって忘れていないのよ。と少し誇らしげに
口にする彼女に男は軽く衝撃を受けた。

 自分はどうだっただろうか、子供の頃描いていた夢を思い出そうとするがなかなか鮮明に思い出せない。
恐竜は昔から好きだった。本当にそれだけだったろうか、宇宙飛行士になりたいと思ったこともあった
ような気がする。

自分の持っていた夢というものがかくもおぼろげになってしまったことに少なからず動揺した。
 自分はこの少女くらいの年のころ、もっと押さなかったときに描いていた夢をいちいち覚えていた
だろうか。

あなたも、今は恐竜に向かって全力で取り組んでいるのではなくて?
そういう彼女はそのおかげで会う場所も今日のようにほとんど動物園だったりするのよねと笑った。
 動物園、飽きちゃいましたか?と芸のない質問を口にしてしまい、少し気恥ずかしくなる。
もう少しまともな受け答えはできないものか。
 そんなことはないわよ。動物達だって毎日同じ暮らしをしているわけではなし、もちろん
機嫌がよさそうなときもあれば悪そうなときもある。何回も訪れていても毎回新しい驚きがあるわ。
 第一、あなたといるのに飽きるなんてことありえないでしょう。と。おかげで日焼けしてしまったわ
。と日に焼けた腕を掲げてみせる。

 そうですか、それを聞いて安心しました。と口にしながらも少女の最後のセリフが妙に眩しくて
正確に把握するのに少し時間がかかった。ストレートに言われるとかなり恥ずかしい。
 会うようになってから数ヶ月経つというのに、彼女のこういった若さにはなかなかなれることが
できない。

 数分、太陽の下で歩いたからだろうか噴出してきた汗をぬぐいながら男は幼い頃に描いていた
夢を一つふと思い出した。
 今だけではない、彼女といると通り過ぎてきた思い出や感覚、胸のちくりとした痛み、
そういったものをリアルに思い出すことがある。毎回、こころの 奥に埋まった何かが発掘されて
いくような気がする。忘れていたけれど、忘れて痛くなかったもの。
 今日は思い出ではなく、夢を発掘した。

 額をぬぐう手を下ろすと図書館の建物が目に入った。
「そろそろ着きますね。着いたら早速文献探しをしましょう。」と彼女を強い日差しから少し
かばうように前を歩いた。日焼けした腕がちらと頭をよぎったのだ。

すたすたと少女の前を歩きながら男は空に浮かぶかなり大きな積乱雲を眺めていた。
私の中に埋もれている夢もあんな雲のようなものに埋もれて発掘されるのを待っているのだろうか。
そんなことを考えながら男は雲に埋もれた夢を発掘している自分をイメージした。

恐竜の化石を掘るように、私はこのしょうじょとはなすことで、埋もれてしまったかつての夢や
そういうものを掘り起こしことができる。
 夢の発掘。この少女といれば、この先も自分やそして娘。の夢を風化させることなく、たとえ
日々に埋もれてしまった夢も発掘し、太陽の下に引っ張り出すことができるのだろうか。
 そしてこの娘ならばそn埋もれていた形のない夢をそのままにすることはなく、きっと気が済むまで
徹底的に突き詰めていくつかは実現してしまうかもしれない。彼女が見た夢を風化してしまわないよう
ともに保ち続けることもできるかもしれない。

 そんな生活を少しは夢見てもいいのかもしれない。
現実に埋もれてしまう夢もぱれば叶う夢もある。男は今時分がちらとみた夢がどちらに分類されるもの
なのかは分からないが、今はまだこの手に掴む事ができる選択肢。ということで、夢という言葉に落とし込み
炊くない気持ちになった。

 「江利子さん、私の子供の頃の夢って恐竜以外にもあるんですよ。」後ろを歩く少女に向かって少し
大きな声で呼びかける。後ろを歩いていた江利子は意外そうな、それでも嬉しそうな表情を見せた。
立ち止まった男に追いついた少女は「あら、初耳ね。」是非、聞かせてくださらない?と真直ぐに
目を見つめて涼しげに笑った。

そういう彼女に私はどの夢を話そうか、と頭の中に先ほど蘇ったばかりの幼い夢を一つ一つ丁寧に
刷毛でほこりを落とすようにしながら確認していった。


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プロフィール

HN:
たまじま
性別:
非公開
自己紹介:
2011年3月:二次創作を再起動しました。
アメカジ、二輪、百合を好みます。
犬も猫もハリネズミも好き。

連絡先:
rally■happy.odn.ne.jp

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