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百合や二次創作 警報発令。デニムや二輪もあるよ。

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Baumkuchen-SIDE RED

ガラスに反射する空の青い色に染まった長方形の建物に詰め込まれていた人々が昼休みを前に多少ソワソワし始める頃。
 街の中心部から少し離れた電波塔の上で佐倉杏子はあぐらをかいていた。杏子が動くたびに手に持っている菓子パンの袋がカサリと音を立てる。

「あれじゃぁまるで懺悔じゃないか。」と杏子は眉間に皺を寄せながら昨日、教会跡で起こった出来事を思い出す。
誰かに話したって一文の価値も無いような自分の昔話を散々吐き出しただけで、結局美樹さやかは背中を向けたまま去っていってしまった。


 一昨日の晩のことも思い出せば不愉快なものだ。一度ムナクソ悪いことが頭の中に引っ張り出されると芋蔓式に余計なものまで出てくるのは
どうにかならないことか、と思ったところで封を開けようとしていた菓子パンをもう一度白いポリ袋に戻した。

 確かに、魔法少女という身体になったところで何の不自由もないのだ。
親から貰った大事な身体がただの抜け殻になったと聞かされただけで、
他は何も変わらないのだ
「本当に、あのムナクソ悪い奴の言う通りなんだよな。」と、平然と事実を伝えるキュゥべえの姿を思い出した。

 元々の味はともかくとして、こちらの都合で眉間に皺を寄せたまま食べてしまっては、菓子パン様に失礼と言うものだ。と
杏子は手元から視線を上へ動かして面倒な考え事を一時放棄することにした。

食べ物にはできる限り敬意を払うのが杏子の流儀だ。




 街の中心から少し離れるだけで、こんなにも風通しも見晴らしも良くなるなんて、あの街の連中は知らないんだろうな、と
パーカーの裾や髪を揺らし、頬を撫でる風の感触にしばらく浸ることにした。


 「魂のありか、ねぇ…。」ふと杏子はつぶやいてみる。
魂がどこにあろうと、こうやって口に運ぶ菓子パンの味は判るし、少し痛いほどの炭酸の刺激も当たり前。
澄み切った空の青さが眼に刺さるように鮮やかなのも普段と何も変わらない。

 都会の人間くさい匂いも嫌いではないが、郊外は郊外の香りがある。
相変わらずそよそよと服を揺らす風を体全体で受け止める杏子の身体が大きく伸びた。

 なんとかしたいからボンクラにかまうのと、こうやって電波塔の上で伸びをするのは自分がやりたいようにやっている、という
ことには変わりはない。
そう思ってしまえば全部簡単な話だ。「これまでと一緒、やりたいことだけやってればいい。」杏子の中でひとつ考えがまとまった。

 つつましい食事を終わらせ、細い鉄骨の上で身軽に立ち上がった杏子は緑の雑木林の中に浮かぶ銀色の街の方を見て目を細めた。
「あのバカは…ちゃんと飯食ったのかな…」




 黄昏時まではまだまだ時間がある。 杏子にとって学園などというものは自分には全く関係も無ければ、もはや関心も捨て去った場所。
しかし、普通とは違う関わり方をしているだけで何故か縁は切れない。
 魔法少女などという言葉で語られている、夜な夜な魔女と戦い、下手をすれば同業者に命を狙われる。そんな類の人間が多くこの組織に属している
ことが主な理由で、どの街でも同じことだった。

 毎夜命がけの生活をしながら昼間、欠伸の出るような知識の詰め込みと、日常生活では決して使わないだろう…と言う運動の時間を共有して、
人間関係やらで悩んだりする。よくやるもんだよ、と言うのが本音だ。

 「今回はあのバカの様子を観に行くだけだ。昨日の教会であれだけのタンカを切ったくらいだから、少なくとも布団にくるまってたりはしないだろう。」
杏子にはそんな確信があった。
美樹さやかの意地という糊で凝り固まった舵はこれまで杏子が身体をぶん殴っても、判り易く正攻法で言葉で心を蹴り飛ばしてみても動かなかった。

 直接、学園という場所に足を運ぶつもりはなかった。
とりあえず、昨日の後の美樹さやかの姿をこの目で確かめておきたかっただけなのだ。
 杏子の足は街の中央付近にある高層ビルへと向かっていた。


 「アタシがむしろ殺してやりたいのは、あの分からず屋の頭の中にへばりついた正義とか言う人の数だけある妄想と、役にも立たない理想像だ」と思い、
「巴マミは本当に気に食わない奴だ、殴れるうちに一発くらい殴っておけばよかった。」と学園からやや離れたところにある高層ビルのエレベータの中で
奥歯をかみ締めた。

 巴マミの奴を殴れるくらい、アイツが長生きしていれば、美樹さやかだってこんなに意固地にならなかったかもしれない。そんなことを考えながら
ビルの中を猛スピードで登る四角い箱の速度に比例してどんどん視界の中に広がっていく模型みたいな街を見下ろしていた。


 「魔法少女が生きているところは強がりや嘘が通用する世界じゃない。」
 賢い奴はみんな、アタシら馬鹿ものに飯の種と厄介事を適当な配分で置いて、とっととあっち側にいっちまうんだ。
そう杏子が自嘲気味にフンと笑うと同時にエレベータ内にチンと言う電子音と最上階の展望室に到着したとアナウンスが流れた。

 平日の午後だからだろうか、足を踏み入れた展望室は結界の中とは違うが非日常の空気が漂っていた。
人の気配が全くしないそこは、日常とは少しだけずれて存在する世界のように感じられた。
 魔女の結界の中と普通の人の世界のちょうど間のような空間で、杏子は「ああ、普通の人はこれを違う世界だなんて思うんだろうな。」と
この展望台が存在している理由がわかった気がした。本当に日常生活ばっかりの生き方をしていると、たまに息が詰まることもあるのだろう。


 杏子は双眼鏡を取り出し、ふっと息を吹きかけるだけでパリン、パリンと割れてしまいそうな学園のガラス窓越しに美樹さやかの姿を認めた。


 これまで、幾度もその表情が
ようやく確認できるくらいの距離で、ガラスやレンズを隔て、さやかの姿を見ることはあったが、
今日ほど苦々しい感情に舌打ちしたくなったことは無かった。
 「ちっくしょうめ」と杏子は喉の奥から搾り出すように吐き出し、さやかから視線を外して床から天井まで一面、外の景色に開いているガラス窓に背を向けて
手持ちの菓子をイライラと開封し、乱暴に咀嚼し、飲み込んだ。

 さやかのどこか無理をしているような笑顔が、いつもに増して不快だった。

 しかし、しばらく背中に広がる世界とは対照的に、展望室の中央に立つ無機質に鈍く光る円柱を眺めていると不思議と心に安堵感が生まれてきた。
美樹さやかは其処に居た。とりあえず、今はそれだけで良いような気がした。昨日のあれは無駄ではなかったのだろう。



 自分が誰かを不幸にした、という事実も、その事実を不幸だと思うことも結構辛いことだ。と杏子は思っている。

 杏子自身、さやかに話したよりもずっと長い時間をかけて「自分がやっちまったこと」を割り切ったのだ。
その長い時間そのものは無駄だとは思っていないが、迷い苦しんだ分、似たような苦労をしなくてはならないだろう他の誰かには、より近道を示したかった。
 ここまでさやかに執着しているのは「諦めるということがどんなことか美樹さやかはまだ本当に分かっていない」からだと思っている。


 「美樹さやかを救いたいなんてのは…。」これは杏子本心なのだが、それだけではない何かが自分の心の中に存在していることに少し前から気が付いていた。
諦めた諦めたと言っている自分自身だって、諦め切れていない何かがあることくらい杏子は気がついている。
だからこそ、昨日の”懺悔”も然るべき行為だったと思っているし、さやかに必要以上に拘っているということだって薄々感づいている。

 女々しいという表現は好きではないが、他に今の杏子自身を表す適当な言葉なんて見つからない。
「そもそも、アタシは魔法少女なんだから多少女々しくてもいいじゃないか。」そんな風にして、初めて美樹さやかの姿を見て以来、杏子は面倒くさくて都合の悪い、
禅問答のような考えをはぐらかしてきたのだった。



 別にこちらから差し出した手を取って欲しい訳ではない。ただ、美樹さやかが今、頑なに握りしめているままの掌では、何も掴めないことを知ってほしい。
決して自分と同じ生き方を強いる訳ではない。利害が干渉し合わない範囲で、気が合うなら共闘してもいいだろうし、一緒に居て腹が減ったならば共に何か食えばいい。
 正義とかいうものは自分の頭だけのものであり、それを実行するのは自分の為、という屁理屈をこねながら生きていくということを理解して欲しかった。

 街で会えば挨拶くらいはする、「それくらいの関係が築ければ万々歳だ。」杏子は再び窓の方へ身体を向け、双眼鏡を覗いてみたがさやかの姿は消えていた。


「美樹さやかじゃなくて、自分自身と向き合いなさいってことかよ。」と苦笑し、ポケットの中からクラッカー菓子を取り出して一枚、口に放り込む。
「しょっぱいもんだな。」と呟き、杏子は手摺にもたれてぼんやりと、どこまでも続く青い空とゆっくり地上に影を落としながら動く雲を眺めることにした。

 杏子が魔法少女になり家族が悲惨な最期を遂げてから、もう十分なくらいの時間は経った。魔女だって正確な数は覚えては居ないが結構な数狩ったはずだ。
「多かれ少なかれ、人様を助けていることには違いない。」単純計算でも自身の家族の人数以上の人は救っていると思う。もう十分償いは終わっている。
そう考え続けることで今まで生きてきた。

 ペットボトルから茶色い炭酸飲料をあおるように飲んだが、塩っ辛い気分が変わることは無かった。
ため息のように「許してくれ、助けてくれって言う相手が居ないんじゃ辛いもんな。」とこぼした。

手摺りから身体を起こし、杏子は街に降りることにした。
人間も魔法少女も同じように日常生活をあくせく送る世界が懐かしくなった。

「自分自身を諦めきれる奴なんか、この世の中に居るわけがない、だから、アイツには悪足掻きさせちゃいけないんだ。」
アイツが下校するくらいの時間にフラフラ歩いてれば顔ぐらい合わすだろうし、それまでに口直しに何か甘いものでも調達するか。
また喧嘩になっても、殴り合いになってもいい。「アタシは諦めない。」
 ひとつ決意した杏子は展望室の床を駆け抜けた。
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プロフィール

HN:
たまじま
性別:
非公開
自己紹介:
2011年3月:二次創作を再起動しました。
アメカジ、二輪、百合を好みます。
犬も猫もハリネズミも好き。

連絡先:
rally■happy.odn.ne.jp

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